最近ソーシャルファームという言葉をよく聞くけれど、どんな制度が気になっている方も多いのではないでしょうか。ソーシャルファームは、特に東京都が認証ソーシャルファームを開始したことで近年注目を集めています。
本記事では、ソーシャルファームの概要や、東京都認証ソーシャルファームの取得や実際の事例について紹介します。ソーシャルファームとして活動し、社会に貢献したいという方はぜひご覧になってみて下さい。
※本記事は記事執筆時点の情報を参考にしています。最新情報については必ず公式サイトをご確認ください。
ソーシャルファームとは
ソーシャルファームは、明確な定義はあるわけではないですが、障害者やひきこもりなど、社会的に困難を抱える人を受け入れる企業を指すとされています。
その始まりは、1970年代イタリアにおいて、精神病院の解体に伴い、患者を地域生活に移行させるにあたり、病院側と当事者が一緒に仕事をする企業を作ったのが起源といわれており、その後はヨーロッパを中心に世界に拡がりを見せています。
発祥の地ヨーロッパにおけるSocial Firm Europe(SEFEC)においては、以下のように定義されています。
障害者あるいは労働市場において、大変不利な人々のために、有給の雇用を創出するビジネス
引用:ソーシャル・ファームによる地域での協働の可能性とその課題についてー平尾昌也
日本においては、2008年にソーシャルファームジャパンが発足し、その後もソーシャルファームとして活動する企業が誕生しています。
東京都認証ソーシャルファームとは
東京都認証ソーシャルファームは、2021年に創設された制度です。これまでソーシャルファームには明確な定義がなく、また補助金等の支援が行われていませんでした。東京都では、全国初となる※「都民の就労の支援に係る施策の推進とソーシャルファームの創設の促進に関する条例」に基づき、基準に適合する事業所をソーシャルファームとして認証しています。
認証ソーシャルファームに認証されることで、補助金の交付等の支援を受けることができます。
※参考・・東京都「東京都ソーシャルファームの認証及び支援に関する指針」
ソーシャルファーム認証の手順
ソーシャルファームの認証を受けるには、まず東京都が実施する説明会に参加し、その後申請受け付け面談を受けます。申請受け付け面談後に申請を行い、都から認められれば晴れて認定となります。
なお、令和6年度についてはまだ募集が行われておりませんが、例年通りにいくと5月ごろに説明会の告知があると思われます。
ソーシャルファームの要件・対象者とは
ソーシャルファームに申し込みをするには、都内に事業所を有する、または都内に事業所を開設する予定の法人である必要があり、個人事業主は対象外となります。
また、認証には、認証、および予備認証の2種類があります。
認証・・認証要件を全て満たし、認証ソーシャルファームとしての支援対象
予備認証・・将来的に認証を受けるため、計画段階で受ける認証。予備認証を受け、認証要件お及び認証基準を全て満たした後に再度認証が必要。
認証要件・認証基準
認証を受けるには、認証要件を満たし、事業所単位で認証基準を満たす必要があります。(認証は法人全体ではなく事業所単位)
主な認証要件
- 事業からの収入を主たる財源として運営していること
- 就労困難者と認められる者を3人以上雇用していること
- 就労困難者と認められる者を従業員の総数の 20%以上雇用していること
- 職場において、就労困難者と認められる者が、他の従業員と共に働いていること
主な認証基準
- 事業活動が条例第3条に定める基本理念に即していると認められること
- ソーシャルファームとしての事業を行うために必要な財務基盤を有し、かつ、資金について十分な管理や精算を適正に行うことのできる経理体制を有していること
- 障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和 35 年法律第 123 号)に定める障害者法定雇用率を満たしていること
ソーシャルファームとしての認証を受けるためには、障害者、健常者関係なく同じ仕事をいている、事業だけで自立した収入がある、障害者の法定雇用率を満たしているなど、障害者に配慮した就労環境があり、かつ事業として収益をあげている事業である必要があります。
申請を行う際は、事業所が基準を満たしているかを十分に確認しましょう。
認証ソーシャルファームのメリットとは
東京都認証ソーシャルファームに認証されるには、様々な条件をクリアし、説明会や面談等に参加し、申請を通過する必要があり、かなりの時間と手間が必要です。
しかし、認証ソーシャルファームになると、東京都からの支援を受けられるなど様々なメリットがあります。
補助金の交付を受けることができる
認証ソーシャルファームになることで、補助事業について、補助金の交付をうけることができます。補助金については認証後に補助事業者となる必要がありますが、最長5年の間、最大で6000万円の補助金を受け取ることができます。
コンサルティングを受けられる
認証、または予備認証を受けると、(公財)東京しごと財団よりコンサルティングを無料で受けることが可能です。社会保険労務士や中小企業診断士等、通常なら相談することで有料となる専門家への相談を無料で利用することができます。
マッチング
認証、または予備認証を受けた事業所について、様々なマッチングを受けることができます。就労困難者の雇用や定着など、支援機関とのマッチングの場が提供されます。マッチングをうけることで、様々な支援機関や企業とのつながりを持つことが出来ます。
認知・ブランドの向上
認証事業者になると、東京都ソーシャルファーム認証事業者として公式サイトに掲載され、情報を発信してもらうことができます。認証ソーシャルファームとして認証を受けることは、企業の認知向上やブランディングにつながります。
補助金の交付・申請について
ソーシャルファームの認証によって、補助金の交付を受けることができます。ここでは特に補助金の交付・申請方法などを詳しく解説します。
補助金申請の流れ
補助金の申請をするには、認証を受けたあとに送付される補助金申請の案内に基づき、申請を行う必要があります。案内については、いつ送られるのかは決まっておりませんが、2023年度は10月ごろに送られたようです。
面談後、審査、現地調査を経て認証を受けることができれば、補助事業実施後に補助金が支給されます。
補助金の申請要件
補助事業者については、認証を受けたソーシャルファームであること(申請中も含む)はもちろんですが、都税の未納がないこと、労働関係の法令違反がないことなどの要件を満たしている必要があります。補助金額は、年間で最大で1400万円、5年間で6000万円となります。
期限 | 補助金額 | 最大補助金額 | 補助率 |
運1年~2年目 | 1150万円 | 1400万円 | 4/5以内 |
3年目から4年目 | 900万円 | 1150万円 | 2/3以内 |
5年目 | 650万円 | 900万円 | 1/2以内 |
※運営費の補助限度額については、「(イ)運営費の補助限度額」に、「都の認証基準を超えて雇用する就労困難者と認められる者の人数×50 万円」を加算することができます。(最大5人分まで)
補助対象となる経費
補助対象となる経費は、自由に決められるわけではなく、補助事業のために必要な経費に限られます。
補助対象となる経費
- 事業計画を実施するために必要な経費
- 運営費の補助対象期間内に、契約、履行または取得、支払いが完了した経費
- 使途、単価、規模等の確認が可能であり、かつ、事業に係るものとして明確に区分できる経費
- 業者からの見積や価格表、パンフレットその他で価格の妥当性が確認できる経費
- 消費税及び地方消費税の課税がある場合は、税抜きの経費
- 人件費(認証後、新たに雇用する就労困難者と認められる者の人件費)
- 就労支援に係る経費(就労困難者と認められる者を直接サポートする者に対して支払われる人件費)
予備認証とは
ソーシャルファームの認証には、通常の認証と予備認証があります。予備認証は、まだ認証を受ける条件は満たしていない場合に、計画段階で予備認証を付与し、将来的に認証を受けることが出来る制度です。
≪予備認証とは≫
予備認証(新設事業所)及び補助事業の申請手続
当該法人が事業所において、予備認証申請後に認証基準に定める雇用者数を満たすまで「就労困難者と認められる者を新たに雇用すること*1」により、認証を取得しようとする場合、認証審査会で事業計画等が認証要件及び認証基準に適合していることを確認の上、総合的に審査し、事前の認証を受けることができます(将来的に認証を受けるため、計画段階で認証を受けることができます)。
予備認証を利用することで、申請時点で要件を満たしていない事業所であっても、予備認証の期間中に認証の要件を満たすことで、正式な認証を受けることができます。
予備認証の申請方法
予備認証についても、申請方法は認証と同じく、まずは説明会に参加し、申請受け付け面談を行い、書類審査や現地調査、面接調査を経て予備認証が決定される流れとなります。
なお、予備認証の有効期間は、予備認証を受けた日から180日を経過した日の属する月の末日までとなるため、それまでに認証要件を満たす必要があります。
ソーシャルファーム認証の注意点とは
ソーシャルファームは、認証を受ければ補助金やコンサルティングなど、様々な補助を受けることができ、非常に大きな恩恵のある制度ですが、その分制約もあります。ソーシャルファームの認証を受ける際に気を付けるべき注意点をお伝えします。
認証は事業所単位
ソーシャルファームの認定は、法人ではなく事業所単位となります。そのため認証を受けたからといって、法人の全ての事業所で補助を受けるといったことはできず、補助金の対象等も事業所に対して行われる形になります。また、他の事業所と経理が区分され、事業所の単位で収支の状況等を把握できる必要があるなど、事業所は一定程度の独立性を持っている必要があります。
就労困難者は認証審査会で認められる必要がある
ソーシャルファームにおける就労困難者は、障害者手帳をもっているといった要件ではなく、ソーシャルファームで設置された認証審査会で認められた者である必要があります。現在障害者雇用されているからといって対象とならない可能性もある点に注意しましょう。
経費は就労困難者と認められるものに関連するものである必要がある
ソーシャルファームでは、備品や設備導入費、工事費、人件費など様々な経費に利用することができますが、就労困難者と認められるものや、ソーシャルファームの運営に関連する経費である必要があります。そのため、単なる事務用品だったり、通常の事業運営のために行われる工事費等には適用することができません。
認証基準を下回ると取り消される可能性がある
ソーシャルファームとして支援を受けるためには、認証後も認証基準を引き続き維持する必要があります。認証後に、就労困難者の雇用基準等を下回った場合には、認証が取り消しとなる可能性があります。また認証基準を下回ってした場合は、速やかに報告のうえ、相談するようにしましょう。
毎年度報告する必要がある
ソーシャルファームの認証を受けた後は、事業者は毎年度事業についての報告を行う必要があります。ソーシャルファームの認定を受けた場合、最大で5年間補助金を支給されます。そのため、認証後も引き続き事業についての報告が必要となり、報告をしない場合は、認証の取り消し等の処分が行われる可能性があります。
ソーシャルファームの認証事例
ソーシャルファームの認証事例を3選紹介します。これからソーシャルファームの認証を検討しているという方は、ぜひ参考にしてみてください。
ATUホールディングス株式会社
ATUホールディングス株式会社は、東京千代田区にある警備会社です。スタッフの就労定着支援システムを導入するなど、就労困難者の方でも就業しやすい環境を整えるなどの工夫を行い、警備業務を行っています。
株式会社アメディア
株式会社アメディアは、歩行用音声ナビゲーションマップの開発などシステム開発等を行っている会社です。障害者の方を助けるシステム開発を行いなら、就労困難者の方も雇用し、マップ制作や広報など、様々な業務を行っています。
株式会社拓実建設
株式会社拓実建設は、東京板橋区にある建設会社です。土木工事や舗装工事などを受け取っています。拓実建設では、犯罪や非行歴のある方を受け入れ、建築現場の人手不足と、就労困難者が抱える就労へのハードルの高さをソーシャルファームによって解決しています。
まとめ
本記事では、東京都認証ソーシャルファームの概要や申請方法、補助金についてや注意点を紹介しました。ソーシャルファームは、認証を受けることで補助を受けられるなど大変役立つ制度です。就労困難者と事業をしたいと考えている方は、ぜひ利用を検討してみてください。